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特集

IT化支援は人材育成支援 段階的なサポートが成功の秘訣

  • 2023年4月13日
  • 税理士法人 山岸会計 様

IT化支援ではITを活用する人材の育成が重要です!
段階を踏んで馴染むまでの期間を取りながらIT化を進めることが成功の秘訣となります。会計システムの「IT化成長ステップ」5段階と、ステップ別の具体的な事例を紹介しています。

会計事務所の経営支援は 数字(事実)に基づく伴走支援

Q : 認定経営革新等支援機関に登録されたのはいつですか

A : 認定支援機関制度が創設された2012(平成24)年に第1号認定を受けました。 国の中小企業施策をしっかり関与先企業に伝達し、活用していただくため、また、税理士として中小企業支援のための経営助言業務を全関与先企業に提供するために認定支援機関に登録しました。

Q : 認定経営革新等支援機関としての取り組みについてお聞かせください

A : 経営改善計画4件、早期経営改善計画9件の実績です。 収益力向上に焦点をあてた「早期経営改善計画策定支援(通称 ポスコロ事業)」のような形で、関与先経営者と会社のあるべき姿を話し合い、将来に向けての改善策を検討し、その実施へ向けて長期間にわたり伴走支援することが会計事務所の役割だと思っております。

会計事務所の行う経営支援とは、実際の数字に基づいたものであるべきです。その数字のデータベースとなるのが仕訳帳であり、その構成要素である会計仕訳1本1本をしっかり確認し、分析し、見極めて話し合うことが会計事務所の伴走支援の第一歩だと思います。会計情報データベースの整理・活用を起点に経営助言に広げていくという方針で、今後も関与先企業を支援していきたいと思います。

代表 山岸崇裕先生

会計システムは「入力」から「読み込む」時代に

Q : IT化支援の取り組みについて現在の状況を教えてください

A : 基本となるのは会計システムの導入運用支援です。東京事務所開設当初は、監査法人勤務時代の経験を活かし、中堅企業(年商5億~50億の規模を想定)向けの導入支援を手掛けました。取引量が多く仕訳の件数が多い企業ということもあって、作業効率を上げるIT化支援として、導入とセットで「データ連携(仕訳読み込み)」の支援も行いました。この経験が事務所の強みとなり特長になりました。

その後徐々に、中小企業(年商5億円以下の規模を想定)の導入支援でも「データ連携」に取り組み、いまや関与先企業の会計システム利用において、仕訳は「入力するもの」から「読み込むもの」というのが当たり前の認識となっています。

IT化支援で人材育成も支援する

Q : 会計システムのIT化支援を成功させる秘訣があれば教えてください

A : IT化をどう支援するかは、企業の現在のIT活用状況や、ITで何を改善したいのか、改善できるのか等に左右されます。我々が行う会計システムによるIT化支援に限れば、ステップを踏みながら段階的な成長を促していくことが成功の秘訣だと思います。

下図は当事務所が考えた会計システムの「IT化成長ステップ」ですが、第1ステップができていない企業に最初から第5ステップに取り組んでもらうと、やることが煩雑大量になり、軌道に乗る前に頓挫してしまう可能性が大きくなります。

第1ステップ: クラウドを取り入れ、いつでもどこでも見られるようにした。
第2ステップ: 消費税の取引区分を登録できるように経理担当者が訓練した。
第3ステップ: 販売管理システム等から会計システムに仕訳連携できるようになった。
第4ステップ: 売上等明細データを切り出し、帳表作成ツールで管理資料を自動作成できるようになった。
第5ステップ: 集計部門等を見直し、会計情報が業績改善に役立てられるようになった。

IT化支援は、ITを活用する人材の育成でもあります。一つ新しい取り組みを始めたら、次のステップに進む前に、まずそれがスタンダードな業務として馴染むまで定着させる時間が必要です。階段には踊り場があるように、何事も新しいことに馴染むまでの期間を設けなければ、人は息切れを起こします。多くのことを一度にやろうとすると、ITは疲れたり、悩んだりしませんが、ITを使う人は覚えられないし、馴染みのないことに疲れて悩みます。

そのため、段階を踏んでIT化を進めることが成功の秘訣です。急がば回れというか、急がば馴染めです。
一つずつステップアップしていくことで企業の人材が成長し、それとともに企業も成長していきます。この経験を積み重ねることで、我々会計事務所のスタッフも一緒に成長します。支援実績はスタッフや事務所のノウハウとして蓄積され、より良い支援ができる会計事務所に成長できます。

なお、この段階的なIT化支援は、あくまでもITを企業に定着させるための現場支援のハウツーであって、「ITをどう経営改善に役立てるのか」という基本的な構想については、あらかじめ経営者と十分に話し合い、未来図を共有しておく必要があります。段階的な「IT化成長ステップ図」で示している第5段階を見据えてのIT化支援でなければ意味がありません。

Q : 続いて、所属税理士の中田明宏先生、データ連携の支援事例を教えてください

所属税理士 中田明宏先生

A社の事例(第3ステップ:データ連携)

課題

支店ごとにそれぞれ異なる販売管理システムを利用して請求書等を発行していた。本部から各支店の売上関連情報(請求明細や売掛金の入金状況等)が確認できず、支店への経理指導や統一処理がなかなかできずに苦慮していた。また、各販売管理システムからアウトプットされる売上関連データはそれぞれレイアウトが異なるため、会計システムへの売上仕訳連携も困難な状況だった。

解決策

IT導入補助金を活用してクラウド型の販売管理システムを導入し、請求書発行業務や売上、売掛金管理を全社統一した。クラウド型システムであるため、全支店のデータベースの一元化にも成功。また、各支店の売上関連情報を本部からいつでも確認できるようになった。 加えて、販売管理システムを会計システムに連携させ、請求確定(請求書発行)と同時に、会計システムに売上と入金を仕訳連携するようにした。その結果、会計システム側でも支店ごとの売上関連情報をタイムリーに確認できるようになった。この仕訳連携の効果は、会計システムへの入力作業や売掛金残高の一致確認作業が不要になったことはもちろん、販売管理と会計の取引別売掛金残高が完全に一致するため、経理業務の生産性が格段に向上した。

企業の声

会計と販売管理システムを全社同一のものとすることで、販売管理と会計の一元管理が可能となり、業務効率が飛躍的に向上した。本部と各支店が同じシステムを利用することで、経理処理の統一化が進み、本部から支店への指導助言がし易くなり、全社業績の把握が正確かつ迅速になった。

B社の事例(第3ステップ:データ連携 / 第4ステップ:管理資料の自動作成)

課題

販売管理システムと会計システムが連動していなかった。販売管理システムで取引先別の売上や売掛金の管理はしていたが、会計システムへの売上入力は、科目ごとに月次でまとめて仕訳1枚で入力していた。
販売管理システムに売上明細データがあるにもかかわらず、会計システムに連動していないため、会計システムで部署別や取引先別等の業績管理ができない他、売掛金の入力処理が二度手間になっていた。

解決策

取引先、部門、商品種類を含む「売上関連明細データ」を販売管理システムから切り出し、予め仕訳読み込みテンプレートを作成した会計システムに、そのデータを取り込めるようにした。仕訳読み込み件数は月間約1万件になったが、会計システムへの仕訳計上の手間は逆に大きく減少した。仮に売上が増加して読み込み件数が2万件に倍増したとしても、仕訳計上に係る時間は従前とさほど変わらない状況となった。また、経理担当者が表計算ソフトで各種データを加工して作成していた管理資料を、会計システムの自動作成ツールを使って会社独自帳表を自動作成できるようにした。

企業の声

売上高の取引先ランキング表等の作成は時間がかかるため、従来は年1回しか作成できなかったが、現在では会計システムからいつでも見ることができるようになり管理が向上した。同様に、商品種類別、部門別などの詳細な売上データがいつでも取得できるようになり、販売動向分析やチェック作業など多方面において、経理レベルが大幅に向上した。

C社の事例(第5ステップ:会計情報が業績改善に役立つようになった)

課題

短期間で店舗出店が続いて、事業拡大スピードに店舗別業績管理が追い付かなくなっていた。

解決策

各業務システムと会計システムとの自動仕分連携の仕組みを構築した。売上はレジ取引がメインのため、レジデータ連携を行い、人件費は給与システムから部門設定で連携し、通帳、法人クレジットはすべてFintech連携し、支払先によってどの店舗の費用か確定できるものは、仕訳学習機能で部門別で自動計上するよう設計した。また、新規出店時の設備投資以外の初期費用などは特別損失に集計し、部門別の営業利益を把握しやすくした。

企業の声

従来は部門振り分けの精度が低いために共通部門にコストが集まってしまい、店舗別の精緻な限界利益や部門貢献利益が見えにくい状態で、金融機関からも精緻化の指摘を受けていた。システム連携を駆使することによって、部門別の業績管理が正確かつタイムリーに行えるようになり、金融機関からも評価された。

D社の事例(第5ステップ:会計情報が業績改善に役立つようになった)

課題

部門別損益管理まではできていたが、事業セグメント別の管理ができなかった。当初、部門別の損益を把握したいというニーズがあり、「本部」、「A支部」、「B支部」と設定した。ただ、各支部にα事業、β事業と同じ事業セグメントがあるものの、事業別合算損益管理ができていないという課題が生じていた。

解決策

「本部α事業」「本部β事業」、「A支部α事業」、「A支部β事業」、「B支部α事業」「B支部β事業」を設定し、会計システムのグループ別管理機能で、「α事業」と「β事業」の合算損益管理もできるようした。

企業の声

今まで、事業セグメント別の損益抽出が困難で時間がかかっていたが、今は、会計システムを開けば、部門別損益だけでなく事業セグメント別の損益状況も確認できるようになり、細分化された課題や対策も明確になることで業績改善につながってきている。

インボイス制度は会計事務所のサービス体系を変化させる

Q : 最後に、今後IT化支援にどう取り組んで行かれるのかお聞かせください

A : 2023(令和5)年10月、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が導入されます。
売り手が買い手に対して、正確な適用税率や消費税額を伝えるための制度改正ですが、課題は紙での請求書やPDFの請求書では経理事務が煩雑になることです。売り手としては、請求書の発行・郵送・仕訳入力・入金確認・売掛金の消込など、買い手としては、請求書の受領・確認・整理・仕訳入力・支払確認・買掛金の消込みなど、経理事務が増加し、転機ミスや入力ミスなども起こりやすくなります。

「デジタルインボイス推進協議会」(注)では、デジタルインボイスの標準化が検討されていますが、請求書などのデジタルデータの仕様標準化が実現すれば、売り手の請求から買い手の支払い処理、売掛金や買掛金の消込まで、システムごとに加工する手間をかけることなく一連のデータ処理が効率的かつ正確に行えるようになります。

(注)経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成 10 年法律第 25 号。以下「電子帳簿保存法」といいます。)」の改正等が行われ(令和4年1月1日施行)、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがなされました。(出典:国税庁)

EIPA|デジタルインボイス推進協議会webサイトより

このデジタルインボイスの仕様標準化で、仕訳連携はさらに新しい局面を迎えることになります。仕訳はいよいよ、入力する時代から読み込む時代へ移行し、企業が会計事務所に求めるサービスは様変わりし、会計事務所のサービス体系は変化せざるを得ません。
この変化こそ、ドラッカー博士が言う「すでに起こった未来」です。会計の新しい時代を見据え、関与先企業に本当に必要とされる会計事務所であり続けるために、会計のIT化支援で企業の成長発展を支える会計事務所でありたいと考えています。


[企業DATA]
2009(平成21)年4月に税理士法人設立
新潟オフィスの公認会計士・税理士 山岸博が1980(昭和55)年8月に個人事務所を創業

東京オフィス
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-16軽子坂田中ビル
Tel: 03-6457-5353 Fax: 03-6457-5343

新潟オフィス
〒941-0058 新潟県糸魚川市寺町2-2-2
Tel: 025-552-7301 Fax: 025-552-6526

URL:https://www.zyamagishi.jp/

[認定経営革新等支援機関について]
登録年月: 2012(平成24)年10月2日
登録理由: 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定
取材日: 2023(令和5)年1月18日