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特集

転換期の税理士事務所成長戦略~仕訳連携は必然の時代セグメント分析が業績向上の決め手~

  • 2023年1月5日
  • ビジネス・ブレイン畑中税理士事務所 様

全仕訳の97%~98%が自動連携され、手入力は3%ほど。会計による経営改善の支援が当事務所の使命、セグメント分析が業績向上の決め手。その具体的な6つの支援事例を紹介。IT人材派遣業の1例、導入4期目に売上は当時の2倍弱、利益は5倍に急拡大を実現。

会計と税務で中小企業の経営をサポート

Q : 認定支援機関に登録されたのはいつですか。

A : 2015(平成27)年7月に税理士事務所を開業し、同年9月に認定経営革新等支援機関の認定を受けました。 開業前に勤めていた税理士法人で、認定支援機関として経営改善計画策定支援事業を実践しており、特に「中小企業等経営強化法」に基づいた「経営力向上計画」の策定支援では約30件の実践経験がありました。
税理士事務所にとって中小企業への経営支援は本来の役割と捉えていましたので、開業後も当然のこととして認定支援機関に登録し、現在に至っています。

Q : 経営改善計画策定支援の取り組み状況についてお聞かせください。
A : 現在、経営改善計画策定支援事業7件、早期経営改善計画策定支援事業5件です。 当事務所の経営改善計画策定支援業務の対象は全関与先です。当然のことながら、この業務はあくまでも「関与先の経営力強化」のために行うものです。それぞれの企業の状況やニーズに即した対応を心がけており、「早期経営改善計画策定支援件数」や「補助金を申請すること」が目的とならないよう気を付けています。

中小企業の成長・発展こそが日本経済の成長・発展に繋がります。税理士として会計・税務を通し中小企業の経営に役立つ支援をすることは必然であり、その一環として、認定支援機関への登録と中小企業支援施策の実践は必須と考えています。
当事務所は、会計と税務で中小企業の経営をサポートすることを標榜しています。税理士として、正しい申告、正しい会計は当たり前で、これからはそれを効率化し、細分化し、経営者の業績管理に有用な会計情報をいかに迅速に提供できるかが肝要です。過去の取引を整理、計算、記録するだけでなく、これからの経営に活かすための情報を発信していくことが、新しい時代の会計・税務に与えられた最も重要な役割だと考えています。

税理士事務所のIT化で
紙や時間と場所の制約から解放された

Q : 税理士事務所として、どう中小企業のIT化支援に取り組んでおられるのかお聞かせください。

A : 中小企業の経営改善や経営力強化を支援する税理士事務所が、その一環として企業のIT化を支援するのは当たり前だと思っています。しかしその前に、企業のIT化を支援する立場として、まずは、税理士事務所自らが積極的にITを取り入れるべきだと考えています。

当事務所は、7年前の開業当初から事務所業務をペーパーレス化、クラウド化しています。
それは、旧来の税理士事務所にありがちな「属人化」や「時間と場所の制約」の問題を解決し、いつでもどこでも仕事を効率的に行うための必須のインフラだと考えていたからです。
コロナ禍の影響によって、今でこそテレワークはなくてはならないものとなりましたが、当事務所はコロナ禍以前からテレワーク主体の業務体制を構築しており、入社歴の浅い社員以外はテレワークで業務に従事していました。
非接触が求められる世の中になったからIT化に進むのではなく、いかに生産性を高めて業務を行うかを考えてIT化を行う必要があります。

なお、当事務所の業務のIT化を支えている代表的なツールは以下の3つです。

(1)「Stock」

事務所内の主たるコミュニケーションツールです。
以前は「Chatwork」というシステムを利用していましたが、現在は「Stock」を利用しています。関与先からの相談内容を共有するときや、事務所内の業務報告は「Stock」で行うようにしており、どこにいても対応可能なコミュニケーション体制を構築しています。現在「Chatwork」は社外のコミュケーションツールとして利用しています。

(2)「Google スプレッドシート」

(参考:Googleスプレッドシートのタスク管理サンプル)

チャット機能付きのクラウド型表計算シート作成ツールで、効率的に正確で洩れのない業務には欠かせません。
事務所内及び事務所と関与先とのタスク管理に使用しています。事前監査等では、この表計算シートでタスクを画面共有し、チャットを使って確認・作業を行います。当事務所ではこの仕事の進め方が標準となっています。Excelとの違いは、リアルタイムで情報が更新されるため、データ保存における世代管理が不要である点と履歴管理ができる点で、重宝しています。

(3)「DocuWorks」

ペーパーレスを実現するためのファイル管理ツールです。
紙の文書等も保存が必要なものはすべてスキャナで読込み、電子化して保存しています。そうすることで、社員であれば誰でもいつでもどこでも見たいものを見られるようになり、作業効率が上がり、結果的に生産性向上につながっています。

なお、この3つのツールは、関与先と事務所や、職員間のコミュニケーション強化に役立つだけでなく、事務所内の仕事の属人化を解消することにも役立っています。ITによるペーパーレス化とクラウド化は、時間や場所の制約を取り払い、この人がここにいないと出来ないという仕事を減らし、仕事のやり方を根本的に変えてしまうので、税理士事務所のDX化実現の近道です。また過去の情報もStockされていきますので、整理された情報が蓄積され、資料探しの時間の大幅な短縮につながっています。

仕訳連携の支援は
経営に役立つ詳細なデータの収集が目的

Q : 仕訳の自動連携で入力業務の排除を推進されていますが、その理由ときっかけをお聞かせください

A : すべての関与先に対して仕訳の自動連携を提案、支援しています。仕訳の自動連携が進んでいる関与先では、全仕訳の97%~98%が自動連携され、手入力は3%ほどしか残っていません。

最初は、計数管理に精通しているお客様の要請に応え、一緒に自動連携の仕組みを構築していったことがきっかけでした。業務システムから吐き出されたcsvデータを仕訳データとして会計システムに自動連携できないか、また、より正確に企業のウイークポイントを掴み、具体的な業績改善策を検討するためには、どのようなセグメント管理や分類が必要なのか等の相談に応えていったのです。こうした一連の構築作業の中で、フィンテックの普及の時期とも重なり、仕訳データ自動連携とそれに伴うセグメント分析は、当事務所の関与先支援メニューの一つになりました。

また、2023(令和5)年10月からインボイス制度が開始されると、請求書等はほとんどの取引でデジタル化され、この仕訳データの自動連携(仕訳データの手入力業務からの解放)が会計処理の標準になっていくと思われます。そうなった時、私たち税理士事務所の仕事から入力作業はなくなり、税務と会計をベースとした経営相談業務・コンサルティング業務に完全に変わると考えています。

ゆえに、仕訳データの自動連携支援は、単純にcsvデータを仕訳データとして会計システムに読み込ませるだけではなく、業績向上に繋がる詳細なセグメント分析可能なデータを得るための設計が重要となります。

会計による経営改善の支援が当事務所の使命
セグメント分析が業績向上の決め手になる

Q : セグメント分析が業績改善に繋がった事例を教えてください。

A : 仕訳の大半が自動連携されれば、経理作業が省力化され、月次決算が早期化するとともに会計資料の精度が向上します。入力作業で費やしていた時間は、経営改善のためのセグメント分析に使うことが可能となります。経理の担当者が、セグメント分析データを早期に経営層に提供できる体制を構築することが経営の改善に繋がります。経営改善の効果が見えれば、さらなるセグメント分析の細分化や月次決算の早期化に拍車がかかり、経営は好循環のサイクルに入ります。

畑中 孝介先生

以下、業績改善に繋がった関与先の事例を抜粋してご紹介します。

ケース1:洋服販売店の事例

【現状分析】
エアレジで商品別分析はできていたが、利益構造が不明確だった。

【経営改善】
チャネル別分析を加えることでチャネルごとの利益構造を明確にし、不採算販売チャネルからの撤退や、重点チャネルの設定等の取捨選択・重点強化項目の設定を実施し、黒字転換を実現した。

ケース2:美容院の事例

【現状分析】
5店舗で営業を展開、POSレジからの仕訳読込を開始し、作業工数やミスが激減した。

【経営改善】
細分化したデータが取り込めるようになり、各店舗の材料比率・ポイント値引額・人件費率などの経営効率の差異が明確化し、店舗ごとの効率改善に取り組んだ結果、業績が急拡大した。

ケース3:ITコンサル業の事例

【現状分析】
1期目取引先別の部門別管理での業績管理をスタートしたが、想定より利益率の低い得意先が判明。

【経営改善】
2期目より、取引先別に加え、商品セグメント別管理をスタートした結果、取引先全体では利益率は確保できていたものの、特定の取引先の一部の商材の利益がほとんどないことが判明し、その商材からは撤退することで3期目以降は利益率が改善。経営も安定軌道に乗った。

ケース4:IT人材派遣業の事例

【現状分析】
部門別管理をスタートしたが、さらに細かいセグメント管理がしたい。

【経営改善】
最小部門を社員にし、共通費配賦を人員数に変更した。最小部門を社員にしたことで、今までの部門別だけでなく、販売チャネル別・業務別・業界別・商品サービス別・入社年次別などの多角度からのセグメント分析を実施することができた。共通費を人員数で配賦することへの変更で、人材を多く抱えている部門の非効率が顕在化し、特定の部門や特定の年次の社員の利益率が少ないことなど、さまざまな経営情報が入手でき、採用方法や教育方法の見直し、人材配置の見直し、営業部門の細分化などを行った。導入4期目の現在は、売上は当時の2倍弱、利益は5倍に急拡大した。

ケース5:当社(ビジネス・ブレイン畑中税理士事務所)の事例

【現状分析】
得意先別に加え、得意先企業グループ別、顧客属性(中堅・ベンチャー・上場企業系など)別等の企業規模別のセグメント管理を実施。

【経営改善】
事務所全体の数値(売上・限界利益)目標は達成したものの、ベンチャー部門の売上・限界利益が目標未達。マーケティング戦略を組み換え、ベンチャー部門を営業重点テーマとしててこ入れを実施した結果、再度の成長軌道に乗り、事務所の主要事業に育ちつつある。中期的には従来の月次顧問料・決算料は、5~10年後に7割減を見込むと試算している。そのため、グループ管理(組織再編)業務・コンサル業務やベンチャー支援、事業承継、M&Aなどの拡大でビジネスモデルの抜本的転換を図り、収益構造を変えていくためにセグメント分析を活用している。なお、セグメント分析は、税理士事務所の新規事業形態の一つとして位置づけている。

ケース6:居酒屋の事例

【現状分析】
開業と同時に顧問契約、メニューの見直しや営業時間別のセグメント管理を実施。

【経営改善】
フードとドリンクを分けた部門別管理を実施。また、ランチとディナーで部門別管理を実施。その結果、利益率改善のためにドリンクの品ぞろえの見直しと価格改定を実施。ランチ営業を止めても収益が十分に確保できることが分かったため、その時間はディナーの新メニュー開発や仕込み等に注力。固定客は離れず経営は安定した。その後稼働率も落ちていないため、食材・種類のクオリティーを上げつつ、2度にわたる値上げをタイムリーに実施し、コロナ禍、インフレ下においても安定的に利益を計上している。

自分で体験していないことは人に勧めにくい
早く決断し、まずはザックリ取り組んでもらうことから始める

Q : 関与先へのIT化支援成功の秘訣があればお聞かせください。

A : 誰でも実践できて効果が期待できることは、関与先に提案するIT化を先に自分の事務所で実践することです。自分で実践し、失敗も成功も経験していることは、提案内容がより具体化し、導入効果を実例として話せるので説得力が増します。一つの企業で成果を上げられれば、次はその成功事例も加味して他の企業に応用的に横展開が可能です。この繰り返しが事務所の経験値として積み重なり、自信となり強みとなります。

また、新しいことに取り組むときに心掛けたいことは、最初から100%の成果を求めないことです。ザックリと「6~7割うまくいけばいいや」くらいの気持ちで始めることが重要です。最初から完璧を求めるとスタートが遅れるだけでなく、チャレンジの気概を損なってしまい、現状維持を求める体質に陥りがちです。アジャイル的な形で迅速かつ柔軟に進んでいくことを関与先にもお勧めしています。

※ビジネス・ブレインの取り組み

1.自分の事務所でまず実践してみる
例:仕訳連携(フィンテック等で仕訳の手入力を排除)・セグメント管理

2.業績管理に結び付けるためのデータ読込
例:販管システム等から切り出すCSVデータを、いかに細分化したセグメント化し業績管理に活かす設計をするかが肝要

3.横展開
例:良い結果やツールは共有し、応用し、多くの企業に採用してもらう。業界が違ってもヒントになることはたくさんある

4.ザックリやる
例:取り組み時は失敗や間違いを許容する。業績管理資料であれば月末までに精度を上げればよい。最初は精度が低くても、社長にあれっ!と早く気づいてもらうことが重要

クールでワクワクさせる税理士でありたい

Q : 最後に、IT化支援には今後どう取り組んで行かれるのかお聞かせください。

A : IT技術の進展は、会計に関連する分野の仕訳連携機能等にも反映され、中小企業もその恩恵を十分に受けられる時代になってきました。銀行口座、クレジットカード、電子マネーなどは、API(Application Programming Interface)連携により取引明細を各金融機関から取得し、明細情報をそのまま仕訳として取り込むことが可能になっています。 将来は、API連携がさらに進化し、ブロックチェーン等の周辺業務までも巻き込んで連携されていくことが確実視されています。会計の分野では、伝票起票や会計ソフトへの仕訳入力は、すべて自動化されていくと推測されます。

この変化は、単に会計業務に省力化、効率化をもたらすだけでなく、今まで資金力や技術力のある大企業しか行えなかったセグメント分析や部門別などの業績管理手法が、中小企業においても低コストで採用できる時代がやってきたということでもあります。 中小企業の新たなニーズとして、セグメント分析などの詳細な財務分析が、間違いなく生まれてくると思っています。そこにこそ、会計・税務の専門家である税理士が、関与先の経営改善・成長発展に寄与し、社会に必要とされ、活躍するフィールドがあると考えます。

税務分野でのデジタルインボイス、電子レシートの法制化や、電子帳簿保存がスタンダードとなることをポジティブ要因としてとらえ、業績改善のためのIT化支援が税理士にとって当たり前の業務として捉えておくべきだと思います。

当事務所には10人のインターン生がいるのですが、若い世代にも「決算書が読めるようになりたい」というニーズはあります。そのような若い世代に対し、会計にはどのような力があるのか、会計で会社がどれほど変わることができるかを分かってもらい、周りをワクワクさせるクールな税理士が一人でも増えてくれたらと思っています。

中小企業の発展こそが地域経済の発展、ひいては日本の経済の発展に繋がります。雇用100人の喪失は500人の生活に影響すると言われています。会計と税務の専門家として、次世代に技術や事業を繋ぐ経営者を支えることを税理士の使命と捉え、地域社会への貢献に尽くしたいと考えています。

[企業DATA]
ビジネス・ブレイン畑中税理士事務所は、大手・上場企業の連結納税コンサルティング業務や組織再編アドバイザー業務を行う。上場企業・子会社から中小中堅企業ファンド・ベンチャー企業まで幅広い企業の税務会計顧問業務に従事。

畑中 孝介(はたなか たかゆき)

税理士
1974年 北海道長万部町出身。
1996年 横浜国立大学経営学部会計情報学科卒業。

連結納税・税効果会計・組織再編税務・戦略的税務等のセミナー多数。 「税務に強い会社は成長する!!」(大蔵財務協会)「平成23年度 すぐわかるよくわかる 税制改正のポイント」「企業グループの税務戦略」「消費税「95%ルール改正」の実務対応 」(TKC出版)「旬刊・経理情報」「税務弘報」などにも執筆。年間50回程度の講演実績。

開業: 2015(平成27)年7月
東京都港区芝大門2-4-6 豊国ビル8F
URL:https://business-brain.com/

[認定経営革新等支援機関について]
登録年月: 2015(平成27)年9月14日
登録理由 : 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定
取材日: 2022(令和4)年10月20日