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特集

認定支援機関は今こそ、中小企業のIT導入支援を!

  • 2021年7月30日
  • 税理士法人 原田税務会計事務所 様 [ 東京都 ]

経費精算システム(アプリ)から会計システムへの連携支援を実施。その導入前の課題と専門家による具体的な支援例を紹介。アプリ提供会社との良好な関係構築及び法令順守が求められる税務・会計業務のIT導入には専門家による指導が必要不可欠であるとことを実感された事例。

もはや避けて通れないIT化。
コロナ禍で変化したIT環境

Q : コロナ禍において税理士法人の業務スタイルに変化はありましたか

A : 2020年から続くコロナ禍の影響で、中小企業を取り巻くIT環境も大きく変化してきました。特に緊急事態宣言下では、顧問先からもリモートワーク環境導入の相談が複数件ありました。私どもの事務所では、在宅勤務が始まる前からカメラやマイクといったリモートワークに必要な設備の準備をしていた経緯もあり、比較的スムーズに導入できました。 今は、企業間のコミュニケーションにおいても、お客様からのご要望に合わせて「Zoom」や「Teams」を活用したリモート会議が日常的になってきています。例えば、画面を共有しながら会計システムの入力方法をダイレクトに指導できるなど、業務効率が大幅にアップしたという側面もあります。

一年経った今、顧問先に出向いて対面打ち合わせに応じる形に戻ってはきましたが、事前の簡単な打ち合わせはリモートで行うというスタイルは、すっかりスタンダードになりました。コロナ以前の対面オンリーという業務スタイルに戻ることはなく、これが当たり前という環境に変わってきたといえるのではないでしょうか。

IT未活用の企業へは、
IT導入補助金というインセンティブを動機づけに。

Q : IT未活用の企業に対する導入支援は大きな課題と言えそうですが、具体的にどのように対応しているのでしょうか。

A : TKC(※1)の「FXクラウドシリーズ」(※2)を活用した「TKCモニタリング情報サービス」(※3)や、複数の金融機関(銀行や信販会社)から、インターネットを利用して取引データを自動受信し、その取引データをもとに仕訳計上できるFinTechサービスを知らない顧問先もまだまだ多いです。ですからまずは、こうしたサービスをご紹介して、企業に合ったプランをご提案することから始めています。

一方、便利だと分かってはいても、現状の仕組みを変えることに躊躇する企業も多いんです。そんなお客様にとって、IT導入補助金というようなインセンティブはやはり大きな動機づけになりますね。実際に補助金を活用して、「FXクラウドシリーズ」を導入されたケースもあります。

※1 TKC:会計事務所と地方公共団体の2つの分野に専門特化した情報サービスを展開する会社
※2 FXクラウドシリーズ:株式会社TKCのクラウド型の会計ソフト
※3 TKCモニタリング情報サービス:月次試算表、年度決算書などの財務情報を、経営者からの依頼に基づいて、金融機関に開示する無償のクラウドサービス。

Q : 顧問先の中小企業における昨今のIT導入状況についてお聞かせください。

A : IT導入については、主に会計システムの導入支援が中心となっていますが、最近は経費精算システム「楽楽精算」(※4)の導入を複数社支援しました。これは、会計システムで管理するまでのプロセス業務を効率化するためのアプリです。TKCの「FXクラウドシリーズ」との連携もスムーズで、企業のご希望に合わせて勘定科目を設定できるなど、比較的自由度が高いシステムです。企業から『こういう使い方をしたい』というリクエストを聞いて独自に設定することが可能となっており、アプリ提供会社の担当者と連携しながらオリジナルのシステムを構築するという導入支援も行ってきました。

初期段階では、アプリ提供会社との機能確認や仕訳確認等の作業で戸惑い、時間も要しましたが、数社の導入経験を経てアプリ提供会社との連携関係も良好となり、導入支援もスムーズにできるようになりました。アプリ提供会社との良好な関係構築はIT化支援業務の重要なポイントになります。

※4 楽楽精算:株式会社ラクスが提供しているクラウド型の経費精算・交通費精算システム

会計に連携する業務アプリのIT導入には
会計専門家による指導が必要不可欠。

Q : 会計事務所はIT導入サポート業務をどこまで手掛けるべきか、その課題も含めてお聞かせください。

A : 最近事業承継された或る顧問先様の話ですが、2代目のご意向で市販のクラウド会計を独自で導入して、当事務所との契約を解約されたケースがありました。ところがそれから3年後、経理担当者から相談があったのです。詳しくお話を伺うと、新規導入したクラウド会計の自動仕訳システムで、消費税区分の設定を間違ったまま1年間入力し続けて、結果的に税務調査が入り、指導を受けてしまったのだそうです。会計の専門家がシステム導入時や月次でチェックをしていれば防げたことと思いますが、この会社ではそれを怠って、間違った数字のまま税務申告してしまったのだとか。効率化だけを重視したIT化のデメリットがクローズアップされたと感じる出来事でしたね。

日常業務の効率を向上させるITアプリがいくら便利だからといっても、一般的な経理知識だけでは税務申告に関する誤りが発生するリスクは避けられません。法令順守が求められる税務・会計業務のIT導入には、専門家による指導のもと適切に進めるのが確実であると改めて感じた事例でした。

今後の課題は、IT化を支援するスタッフ教育と
顧問先への最新情報の提供。

Q : IT化支援での事務所の課題について教えてください。

A : 私どもの所内での社員教育も大きな課題です。今、自主的に勉強できるツールもありますし、エクセル講座の見放題プランも契約しているのですが、なかなか思うように時間が取れず、ITのスキルアップがスタッフ個々人任せになっていることも悩みの一つですね。 また、ITスキルの向上はもちろん課題ですが、それ以前のこととして、例えばIT導入補助金の活用についても消極的になってしまうケースがありました。お客様に申請手続の負担をかけてしまうことがネックになったようです。

今後は、中小機構で支援機関向けに制作している“IT導入支援関連のYouTube動画”なども活用して、スキルアップに役立てたいと思います。

Q : 2023年10月から施行されるインボイス制度はIT化支援にどのような影響があると思われますか。

A : インボイス制度では、課税事業者はもちろん免税事業者も対応が必要となります。2021年10月からは適格請求書発行事業者の登録申請が始まります。
正直なところ、2023年10月まで少し時間があることもあって、急務として取り組んでいないというのが実状です。制度が導入されると仕入税額控除など会計システムにも何らかの対応が必要になりそうですが、業界全体でもまだ具体的な流れになっていません。でも、そろそろ免税業者にインフォメーションをする時期がきていますね。登録申請期限の2023年3月31日までには、会計フローの見直しも必要だと思います。

Q : 最後に今後の展望をお聞かせください。

A : 例年、税制改正セミナーを対面で開催していたのですが、今年はYouTubeによる動画配信で行いました。自分自身で機材も整えて撮影・編集したのですが、とてもやりがいを感じています。集合型セミナーは日時が限定されますし人数制限もありますが、動画配信であれば時間も場所も選ばないというメリットもあります。今後も、例えば年末調整の書き方など、さまざまなテーマで少しずつオリジナル動画を制作してアップしていこうと計画中です。顧問先はもちろんスタッフ教育向けの教材としても活用できそうです。コンテンツが充実してくればYouTubeでの収益化も可能になるかもしれません。また、採用を視野に入れた学生向けのWebセミナーもやってみたいですね。税務・会計事務所である我々自身も、ITを活用して新たなことにいろいろチャレンジしていきたいです。

また、印刷ツールを使って積極的に情報発信をしていきたいと思います。毎月、顧問先へ向けて『事務所通信』を500部ほど発行しているのですが、その紙面上でも中小企業の税務・会計業務に役立つ独自の情報を発信しています。今後は、中小機構で提供されている「IT経営簡易診断」(※5) 、「IT戦略ナビ」(※6)など便利なサービスも積極的にアナウンスしていきたいですね。

※5 IT経営簡易診断:中小機構登録のIT専門アドバイザーによる3回の面談を通して、経営課題・業務課題を全体最適の視点から整理・見える化し、各社にあったIT活用可能性を提案するサービス。
※6 3STEPの項目選択で、自社のIT課題を見える化した「IT戦略マップ」を作成することができる無料のWebツール。自社の課題に応じたおススメのITソリューションを確認できる。(https://it-map.smrj.go.jp)

[企業DATA]
原田会計グループ
税務・会計の専門家である税理士法人原田税務会計事務所と、人事・労務部門を担う社会保険労務士法人オフィストラスティが一体となった経営支援企業。「月々の財務諸表の作成」をはじめ、「経営改善計画書の策定」「資金繰り対策」「黒字決算実現」「事業承継アドバイス」、また「給与・人事管理、労務管理」まで企業のバックオフィス業務をサポート。提携企業とのネットワークを活かした『元気な会社のビジネスドクター』として、法人約500社の多様なニーズに“総合力”で応えている。

開業 : 1980年5月
URL : http://www.harada-office.com

[経営革新等支援機関について]
登録年月: 2012(平成24)年11月5日
登録理由: 経営革新等支援業務 / 経営改善計画書策定